シナベニアのパネルに和紙を貼り、絵画用の下地を作る。
下地作り1
①支持体と道具について
支持体はシナベニアの木枠、30cm四方のもので、これに和紙を貼る。
使うのは、湯煎用の鍋とコンロ、蒸し器用目皿、計量器、計量カップ、膠(ニカワ)、刷毛、ヘラなど、そして和紙。
膠はゼラチンのこと。膠液にして接着剤として使う。
今回使うのは鹿膠、西新の東美さんで調達した。
テンペラ画で厚い石膏地を作る際は、固着力が強く柔軟性がある兎膠を使うが、乾いた後、厚く塗った石膏地を削りやすく、下地用として重宝されている。
ただ粉末状で、湿気を吸ってすぐに膨潤てしまうので、保存場所を工夫する必要があるし、不純物も多い。
鹿膠はサイコロ上で売られていて湿気や腐敗にも強く、湿気の多い風土に合っている。
膠液は、透明性が高くサラッとした印象だが、強く固着するので、和紙の接着剤と同時に、和紙に直接描く場合の下地用としても適していると思う。
和紙は地元佐賀の名尾和紙を使っている。
名尾和紙のHPによると、和紙の繊維は「楮(コウゾ)ではなく、名尾地区に自生する梶の木(カジノキ)」が使われているとのことで、繊維が長く丈夫というのが特徴とのことである。
もう何年も使っているが、使用感はとても良く、筆圧を感じれる程度の薄めの和紙を使用しているが、硬い鉛筆にも耐えてくれる。
②前日処理
膠は湯煎して膠液を作るのだが、鹿膠は硬くしまっているので、使用する前日に水に浸して、水分を吸わせてから湯煎する。
分量は、膠1に対し水10の割合で、今回は、300ccの水に30gの鹿膠とした。
シナベニアは表面を水引きして、ケバ立てたあとサンドペーパー(240番くらい)をかけておく。
シナベニアは、表面にシナ材が貼ってある合板で、絵画の支持体として手頃で便利である。ただ工業製品なので、昔のように木を何年も寝かせて乾燥後に加工するということはない。化学的な処理はすると思うが、油やヤニなど、見た目ではわからない要素はあるだろう。
日本画でも、木のヤニ防止するのに、アク止め剤を塗ると聞いたことがある。
シナベニアに水を引いた時、水を弾くような場所は念入りにペーパーをかける。
和紙は支持体のベニアより大きめにカット(余分は木枠に折り込む)しておく。
下地作り2
③膠水作り
つけておいた鹿膠を湯煎して溶かす。(写真は6時間ほど浸したもの、まだ芯が見える)
鍋はアルミ製の深めの鍋を使用しているが、作業中の温度管理を考えると、保温が効く素材の方が良い。
鍋に蒸し器用の目皿を敷いて、ビーカーが浮かない程度に水を張り、コンロで温める。(ずっとカセットコンロでやっているが、保温管理ができる機器などの方が良いと思う。)
鍋底がない場合、陶器の皿などでも代用できる。
湯煎時の水温は、鍋やビーカーに小さい気泡が出初める位が目安。
水温が60℃くらいになっているので、この状態をキープする。
この時、膠水の温度はまだ30℃〜40℃ほどで、周囲の水温に馴染みながらゆっくりと溶けていく。
ポイントは、膠液を高温にしないこと。
よく80℃ほどで固着力がなくなるという。
膠は溶ければ良いので、作業をする際の膠水の温度は、50℃から60℃ぐらいがサラサラで使いやすいと思う。
④前膠塗り
和紙を貼る前に前膠塗りをする。
溶けた膠水を熱いうちに刷毛でシナベニアに塗る。
前膠塗りをするのは、木材が大変に吸水性が高いので、目止めの意味合いと和紙をより強力に固着するためである。
表面と側面に丁寧に塗る。(板の裏面に塗っておくと湿気防止にもなる。)
塗り終えた支持体は、画鋲などで浮かせて乾かす。
乾いたらサイドペーパー(400番くらい)をかけて、2回〜3回ほど繰り返す。
⑤和紙貼り
前膠塗りが終わったら和紙を貼る。
まず、予め板のサイズに合わせておいた和紙の裏面に、霧吹きか刷毛で水を引く。
次に板の表面と側面に膠水を塗り、濡らした裏面を重ね手早く和紙を貼る。
表面を乾いた刷毛で中央から外に向かって慣らしながら貼っていく。(気泡を追い出すイメージ)
次に、側面に改めて膠水を塗り、和紙を折り畳んで貼る。
角は、折り曲げる所にも膠水をつけてしっかりと固着させる。
角の仕上げ用に丸筆などを用意しておくと作業がしやすい。
膠は強力に接着するので、画鋲などでパネルを浮かせて乾燥させる。
和紙を貼り終わったら、仕上げにもう一度、全体に膠水を引き、和紙の繊維にしっかりと慣らしていく。
貼った後で気泡が出たらカッターの刃先などで空気穴を作り爪などで軽く抑えると取れる。
大切なのは、あまり時間をかけないこと。
膠水は板に塗った後温度を下げて固まろうとするので扱いづらくなる。
乾いたら、サンドペーパー(400番以上)を膠を取りすぎない程度に軽くかける。
その後、2回〜3回膠水を重ねて仕上げる。
膠水は、接着剤と目止めの意味があるが、それでも吸水性は高い。
日本画では、明礬を混ぜることで吸水性を抑えたりするが、私は下絵のデッサン段階を終えて、彩色工程にいく前にアクリル樹脂などで目止めをしている。
鉛筆には生な和紙の繊維の感覚が嬉しい。
使用した筆や刷毛はそのままでは固まるので、一つの工程が終わるたびに、水道水などで、もみ流しておく。当然お湯のほうが良い。
そして作業の終了時には、全ての道具をお湯で丁寧に洗ってから干す。
今回は30cm四方の下地作りを行ったが、大きい支持体でも和紙を張り合わせる工程がある位で作業の中身は変わらない。
Comments