7年前、Wald Art Studioのグループ展に初めて出品した作品が「鵺」だった。
30cm四方の小さな絵。 月明かりに照らされた静かな池の辺り、水紋に驚いたのか、飛び立つ鳥の姿として描いた。
妖怪「ぬえ」は、もともとトラツグミという小鳥がモデルである。
平安時代の和歌には「ぬえどり」として登場し、愛しい人を思い「うら泣いて(忍び泣いて)」しまう様を表す「寂しげな象徴」として読まれているそうだ。 それが、平家物語に登場する妖怪の声が「ぬえ」のようであるとされたことから、いつしか「ぬえ」は妖怪にされてしまった。
トラツグミには迷惑な話であるが、「ぬえ=妖怪」というイメージは、多くの物語や絵を通して人々の間に浸透し、今も独り歩きしている。
私自身がトラツグミの立場であれば、私もまた「ぬえ」と呼ばれるのだろう。
「鵺」を描いた時もそんなことを考えた。
「鵺の森」と言うと恐ろしい響だが、トラツグミには住み慣れた豊かな森に違いない。 ここに展示している絵画や写真は、私の心にある「鵺の森」に咲く花たちや風景である。 「鵺」の目で見た景色であり、私が美しいと思ったものたち。 人は誰も心の中に自分だけの「鵺の森」を持っていると思う。
周りからは理解されない森かも知れない。
誰からも見える世界でもなく、あえて見せる世界でもない。
でもその世界には、それぞれが信じるものや、美しいと感じる心が存在している。
人とは違う森かも知れないが、豊かな森であって欲しいと思う。
2022年6月
「鵺(ぬえ)の棲む森 黒木英雄作品展」に寄せて
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画像参照 フリー百科事典『ウィキペディア Wikipedia 』
「京鵺大尾」「木曽街道六十九次」の内、歌川国 画、嘉永5 年 1852 年 10 月https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B5%BA
トラツグミ画像 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%84%E3%82%B0%E3%83%9F
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