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  • 執筆者の写真英雄 黒木

「ある森の物語」のこと

更新日:2022年12月17日

森はインスピレーションに溢れている。

森を歩くと様々な種類の木々や大小の岩たちやそれらが織りなす陰影に出会う。

長い年月で淘汰を繰り返してきた木々の姿は、自然が作り出した偶然の造形には違いないが、私たちはそこにいくつもの物語を見出すことが出来る。

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第一章 「旅の初め」


森の奥には光に照らされた空間があった。

なにかの入り口のように見えるその場所は、山茶花の白い花がきらきらと光の粒のように浮かんでいて、森の暗さに慣れた目にはとてもまぶしく思われた。

よく見ると、身をよじったような木がまるで門のように立っていて、引き込まれるような感覚と同時に、これから何かが始まるという予感で心が満たされた。





最終章 「墓標」


その場所には顔のような洞(うろ)を持つ木が、古(いにしえ)の杖のような佇まいでひっそりと立っていた。

木の根元はちょっとした花園になっていて、花たちはまるで縄張りのようにその一画を占め、森を抜ける風に小さく揺れながら静かに咲いていた。

暗い森の中で、光るように浮かび上がる花たちはとても幻想的で、どこか近づきがたく、ここに眠る者たちを優しく癒し続けているのだと思われた。




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「ある森の物語」は、写真の印象をもとにした架空のお話です。

と言っても、まだ全体像も何もなく、この二つの文章しかありません。

写真は、佐賀県吉野ヶ里町にある「千石山サザンカ自生北限地帯」として紹介されている山茶花の森で、私は「鵺(ぬえ)の森」と勝手に呼んでいます。

宮沢賢治は、よく遊びに行った北上川の川岸を「イギリス海岸」と呼び、そこでの体験を天上世界にある「プリオシン海岸」として銀河鉄道の夜にも登場させています。

身近な場所や現象を自身の心象で昇華して、新しい物語として再構築していく創作はとても素敵だと思います。

私の「鵺(ぬえ)の森」もいつかそんな物語になればいいなと考えています。


2022 年2 月

黒木英雄


Abouty30 Vol.2(2022年Wald Art Studio)に寄せて

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