作成した支持体に下絵を転写する。
と言っても今回は写真を原画として使う。
秋に撮影したホトトギスである。
母が生前に植えたホトトギスが花壇で群生していて、一部を花瓶に移して撮影した。
ホトトギスは、背丈が1mほどにもなり1〜2cmくらいの花をたくさんつける。
60mmのマクロレンズで、18cmほどの距離から撮影。
マクロレンズの近距離撮影は、被写界深度が浅く、単写真では焦点部分から数センチ離れてもボケてしまう。
そこで、少しづつピントをずらしながら撮影し、焦点のあった部分を合成するフォーカスシフトという撮影方法で撮影を行なった。花の詳細を見たかったからである。
今回は、50枚の画像を合成した。
その後、合成画像をいつものように、モノクロ状態で仕上げた後、部分的に色を回復させ仕上げている。
ホトトギスの花は、複雑である。
肉厚で白地に紅紫色の豹柄をした6枚の花びら(3枚の内花被片と3枚の外花被片)があり、花弁の根元付近には、輪のような黄色の模様がある。 花の中央から雄しべと雌しべが出ていて、ともに豹柄である。
雄しべは6本で雌しべの下の方で下向きに葯を開く。
雌しべは3本あり、さらにその先端が2つに分かれ、反るように開いている。 ホトトギスの花は3の倍数で構成されている。
雌しべには先端に水晶つけたような小さな突起があり、花特有の妖しい美しさがある。
ホトトギスという名前は、この豹柄が鳥のホトトギスの胸の模様に似ていることに由来するらしい。
ホトトギスは群生し、たくさんの花をつけるので、秋には花壇の一角を紫色に染める。
花言葉は「秘めた思い」である。
この複雑な構造を、絵画でどう表現できるだろうか?
写実を考えたい。
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下絵の転写方法にはいろいろある。
プロジェクターは大きい作品のときに大変便利である。
投射する角度と歪の調整があるが、作品が大きい場合は位置精度も厳密である必要は無いし、投射の段階で絵作りをすることもできる。
プロジェクターと支持体の位置さえ固定しておけば、常に同じ状態で作業に戻れるし、光を遮断すると、下絵の線を確認できる。
転写シートを使う場合、トレーシングペーパーを利用する方法のほか、念紙・カーボン紙・チャコペーパーなどがある。
念紙は、土系の顔料を、粘性のある日本酒で和紙に固着させたあと紙を揉んで作る、日本画の技術である。
黄土から弁柄のような赤褐色まで、好みの色で作成する事が出来る。
カーボン紙は、カーボン(煤)ブラックを油や蝋で塗装してあり、くっきりした転写が出来るが、転写後しっかり固着するので、淡色の絵画には合わない。また油分があるので水彩やガッシュにも向いていないと思う。
チャコペーパーは、裁縫で使われる型紙の転写用に作られたシートで、水で消せる特徴がある。
つまり下絵の転写後、鉛筆などで素描をした後に、転写の線のみ(水で)消すことができるという優れものである。
色々な種類があるが、今回はスーパーチャコペーパーを使用した。
ちなみにチャコとはチョークが訛ったものらしい(by Wiki)
支持体と同縮尺に出力した画像を重ね、間にスーパーチャコペーパーを挟み、硬めの鉛筆で直接画像をなぞっていく。
もちろんトレペに一旦写し込んでも良い。
この時、描く対象の構造を想像しながら転写することは有効だと思う。
写真の場合、撮影の具合によって必ずしも輪郭が明確で無い場合があるが、絵画表現では対象の「もの」としての重なりが重要で、前・後、面の角度、質、色、光、この関係性(ヴァルール)により、広がりのある空間を作り出すことができる。
それは対象を単純化した場合でも同じである。
だから転写においても、構造として大事な線や細部のポイントを押さえていく。
当然、素描で補うこともできるので、こだわるかどうかは本人次第だが、転写を単純作業にしないためにも、描くつもりで転写したほうが楽しいと考えている。
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