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森の贈り物

更新日:2022年12月17日

森で写真を撮る際に季節ごとの花を見る事が楽しみの一つとなっている。

撮影に入る前には、いつも30分ほどかけてその周辺をゆっくり散策しながら、足元の草花や、木々の変化を楽しんでいる。決まったルーティンだ。


その日は穏やかに晴れた春の日曜日で、少しの風と木漏れ日が心地よく、鳥の声だけが静かな森に響いて、時間もいつもよりゆっくりと流れているようだった。

手持ちのカメラだけを持って、撮影する森の縁を道沿いに歩いてると、森の終わる角の道脇に黄色い花が一輪咲いているのに気が付いた。

菜の花かと思ったが、衣を纏った様な立ち姿に違和感を覚え、近づいてみるとなんとキンランであった。

本当かと少し緊張しながら近づく。間違いない。まだ見る事が出来るんだと思い写真に収めた。こんな場所でも咲くんだと少し驚きも入っている。

咲いていたのは背丈ほどある切通しの土手の根元付近で、土手の上にはサザンカの大木があり、法面から地面に向かって血管のように浮き出ている太い根のその間辺りから、鮮やかな緑色の茎が立ち上がっていた。

ひょっとして土手を登ったところに別の群生があるかと覗いてみるが、やはり咲いているのはこの一輪だけであった。

キンランは30cmほどの背丈で5~6個ほどの花をつけていて、さほど大きくはない個体だが、凛とした立ち姿に、静かな気品が感じられた。


キンランは「金蘭」と書き、黄金色に輝く黄色い花が名前の由来となっている日本在来の野生のランである。自然のキンランを見るのはとても久しぶりだったし、以前見た場所も少し山に入った人があまり来ない場所だった。

調べたところ、キンランは佐賀県でも絶滅危惧Ⅱ類種に指定されていて、生育に適した環境が少なくなってきたことや、盗掘などにより数が減少しているという。


キンランは不思議な植物で成長するためのエネルギーの全てを自分で作ることが出来ず、外生菌根菌と呼ばれるラン菌を介して、このラン菌が共生する樹木から養分をもらいながら生活している。このため、キンランのみを庭に移植しても、年を追って作落ちしやがて枯れてしまい決して定着することは無い。

キンランが成長する為には、キンラン自身と外生菌根菌と外生菌根菌が共生する樹木が必要で、どれが欠けても成り立たないのだ。

外生菌根菌が共生している樹木がサザンカなのかは分からないが、キンランが花を咲かせていたと言うことは、その条件が満たされていたという証であり、一輪だけだった背景には、日照や温度、湿度など様々な条件があったに違いない。

そして、また来年もこの場所に咲くという保証もないだろう。

そう思うとこの日キンランに出会ったことが奇跡のように感じられ、森からの特別な贈り物をもらったようなそんな気持ちになった。


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